歴史を忘れる民族に未来はない!

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日本国はサンフランシスコ講和条約第11条で何を受諾したか。

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おつかいくまさん @otsukaikumasan

東京裁判を受諾したというのは、判決の効力と判決した裁判所の設置根拠、適用法規、手続き等の有効性を認めたということで、認定された事実を「正しい」と認識していることではない。
わかりやすく言うと
有罪になった被告人が内心冤罪や量刑不当だと思っても、法に従って刑に服するということはある。

https://twitter.com/otsukaikumasan/status/1364265858646745090

 

 まずもって、日本国は極東国際軍事裁判の被告ではないのだから、「有罪になった被告人が内心冤罪や量刑不当だと思っても、法に従って刑に服するということはある」というのは、サンフランシスコ講和条約(以下「サ条約」と略す)で日本国が同裁判の “the Judgments” を受諾したことの譬えにはならない。この裁判で有罪になった被告人である東條英樹や松井岩根などの個人が、判決に従って刑に服しながらも内心裁判の事実認定や量刑が不当だと思っていたかどうかということと、サ条約第11条で「極東国際軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾」した日本政府が、判決の事実認定をを受け入れたかどうかということは別問題であり、「おつかいくまさん」の譬え話は、国際裁判の被告と日本国をすり替えた詭弁である。

 次に、サ条約第11条で日本国が受け入れているのは極東国際軍事法廷その他の連合国戦争犯罪法廷の(定冠詞つきの) “the Judgments” であり、これはそれらの裁判の「判決」を意味すると当然に理解される。

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        Article 11

 Japan accepts the Judgments of the International Military Tribunal for the Far East and of other Allied War Crimes Courts both within and outside Japan, and will carry out the sentences imposed thereby upon Japanese nationals imprisoned in Japan. 〈……〉 

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/B-S38-P2-795_1.pdf

 つまりサ条約第11条で日本国が受け入れた “the Judgments of the International Military Tribunal for the Far East and of other Allied War Crimes Courts” とは、極東国際軍事裁判の終わりに1948年11月ウェブ裁判長が読み上げた “the Judgment of the International Military Tribunal for the Far East” や、その他の裁判の判決に他ならない。


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 Thursday, November 1948

 

    INTERNATIONAL MILITARY TRIBUNAL

        FOR THE FAR EAST

      Court House of the Tribunal

         War Ministry Building

          Tokyo, Japan

 

 The Tribunal met, pursuant to adjointment, at 0930.

〈……〉 

 MASHAL OF THE COURT:  The International Military Tribunal for Far East is now in session.

 THE PRESIDENT:  All of the accused are present except HIRANUMA, SHIRATORI and UMEZU.  The Sugamo prison surgeon certifies that they are ill and unable to attend the trial today.  The certifications will be recorded and filled.

 CLERK OF THE COURT:  THE UNITED STATES OF AMERICA, THE REPUBLIC OF CHINA, THE UNITED KINGDOM OF GREAT BRITAIN AND NORTHERN IRELAND, THE UNION OF SOVIET SOCIALIST REPUBLICS, THE COMMONWEALTH OF AUSTRALIA, CANADA, THE REPUBLIC OF FRANCE, THE KINGDOM OF NETHERLANDS, NEW ZEALAND, INDIA, AND THE COMMONWEALTH OF PHILIPPINES.

       AGAINST 

DARAKI, Sadao, DOHIHARA, Kenji, HASHIMOTO, Kingoro, HATA, Shunroku, HIRANUMA, Kiichiro, HIROTA, Koki, KIDO, Koich, KIMURA, Heitgro, KOISO, Kuniaki, MATSUI, Iwane, MATSUOKA, Yosuke, MINAMI, Jiro, MUTO, Akira, NAGANO, Osami, OKA, Takasumi, Okawa, Shumei, OSHIMA, Hiroshi, SATO, Kenryo, SHIGEMITSU, Mamoru, SHIMADA, Shigetgro, SHIRATORI, Toshio, UMEZU, Yoshijiro.

 JUDGMENT OF THE INTERNATIONAL MILITARY COURT FOR FAR EAST.

 THE PRESIDENT: I will read the Judgment of the International Military Tribunal for the Far East. The title and the formal parts will not be read.

 PART A-CAPTER 1

 Establishment and Proceeding of the Tribunal

 The Tribunal was established in virtue of and to implement the Cairo Declaration of the 1st of December, 1943, the Declaration of Potsdam of the 26th July, 1945, the Instrument of Surrender of the 2nd September, 1945, and the Moscow Conference of the December, 1945. 

〈……〉

○昭和二十三年十一月四日(木曜日)

東京都旧陸軍省極東国際軍事裁判所法廷において

[中略]

 〔午前九時三十分開廷〕

○法廷執行官 ただいまより極東国際軍事裁判所を開廷します。

○裁判長 平沼、白鳥及び梅津の三被告を除き、全被告出廷、欠席被告は弁護人によって代表されています。

 巣鴨拘置所医務官からの証明書によれば、右三被告は病気のため本日出廷できないとのことであります。この旨記録に留め、証明書は綴じ込みに入れます。

○法廷書記 アメリカ合衆国中華民国、グレート·ブリテン·北アイルランド連合王国ソビエト社会主義共和国連邦オーストラリア連邦、カナダ、フランス共和国オランダ王国、ニユージーランド、インド及びフイリツピン国

   対

荒木貞夫土肥原賢二橋本欣五郎、畑俊六、平沼騏一郎広田弘毅星野直樹板垣征四郎、嘉屋興宣、木戸幸一木村兵太郎小磯国昭松井石根松岡洋右、南次郎、武藤章永野修身岡敬純大川周明大島浩佐藤賢了重光葵嶋田繁太郎白鳥敏夫、鈴木貞一、東郷茂徳東條英機、梅津美次郎

   極東国際軍事裁判所判決

○裁判長 本官は、ころから極東国際軍事裁判所の判決を朗読します。表題および形式的の部分は朗読しません。

 〔朗読〕

  A部第一章 本裁判所の設立及び審理

 本裁判所は一九四三年十二月一日のカイロ宣言、一九四五年七月二十六日のポツダム宣言、一九四五年九月二日の降伏文書及び一九四五年十二月二十六日のモスコー会議に基いて、またこれらを実施するために設立された。

[以下略]

↑A級極東国際軍事裁判速記録(英文)・昭和23.11.4(第48413~48674頁) https://www.digital.archives.go.jp/das/image/F0000000000000340390  p.4~p.6

↑A級極東国際軍事裁判速記録(和文)・昭和23.11.4~昭和23.11.12(判決) https://www.digital.archives.go.jp/das/image/F0000000000000340254  p.7~p.8

 

 もっとも、日本政府外務省はサンフランシスコ条約第11条の “the Judgments” を「裁判」として次のように和訳し、これは正文に準ずるものとして締約国の間で承認されている。

第十一条
 日本国は、極東国際軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾し、且つ、日本国で拘禁されている日本国民にこれらの法廷が課した刑を執行するものとする。

 「裁判」を受諾したと言うと裁判の何を受諾したのかはっきりしないようにも見えるが、これは裁判のすべてを受諾したとしか解釈のしようがない。“the Judgments” の訳語として用いられている以上、この「裁判」は「判決」から派生して裁判の全体を意味するものと見るべきだろう。つまりそれは判決以外のものを含むことはあり得ても、判決を含まないことはあり得ない。当然それは判決に述べられた事実認定を含まないこともあり得ない。

 そもそも極東国際軍事裁判の判決文は長大なものであり、その中では法廷の設立根拠、審理の方法、法廷の管轄権の根拠、起訴状の訴因の検討、日本国が結んだ諸条約により日本国が負った義務と得た権利、訴因のもとになる犯罪事実の認識、起訴状の訴因についての認定、判定、刑の宣告などが述べられている。

 サ条約第11条で日本国が受諾した “the Judgments” が何を意味するかについては、2005年6月2日の参議院外交防衛委員会山谷えり子委員の「日本は裁判の判決を受け入れていますが、日本側共同謀議説などの判決理由東京裁判史観を正当なものとして受け入れたのか、また、罪刑法定主義を無視し、今日でも概念が国際的に決まらない平和に対する罪で裁かれたことを受け入れたのか」という質問に、政府委員の林景一外務省国際法局長が次のように答弁している。

 先生も今御指摘のとおり、サンフランシスコ平和条約第十一条によりまして、我が国は極東国際軍事裁判所その他各国で行われました軍事裁判につきまして、そのジャッジメントを受諾しておるわけでございます。

 このジャッジメントの訳語につきまして、裁判というのが適当ではないんではないかというような御指摘かとも思いますけれども、これは裁判という訳語が正文に準ずるものとして締約国の間で承認されておりますので、これはそういうものとして受け止めるしかないかと思います。

 ただ、重要なことはそのジャッジメントというものの中身でございまして、これは実際、裁判の結論におきまして、ウェッブ裁判長の方からこのジャッジメントを読み上げる、このジャッジ、正にそのジャッジメントを受け入れたということでございますけれども、そのジャッジメントの内容となる文書、これは、従来から申し上げておりますとおり、裁判所の設立、あるいは審理、あるいはその根拠、管轄権の問題、あるいはその様々なこの訴因のもとになります事実認識、それから起訴状の訴因についての認定、それから判定、いわゆるバーディクトと英語で言いますけれども、あるいはその刑の宣告でありますセンテンス、そのすべてが含まれているというふうに考えております。

 したがって、私どもといたしましては、我が国は、この受諾ということによりまして、その個々の事実認識等につきまして積極的にこれを肯定、あるいは積極的に評価するという立場に立つかどうかということは別にいたしまして、少なくともこの裁判について不法、不当なものとして異議を述べる立場にはないというのが従来から一貫して申し上げていることでございます。

https://kokkai.ndl.go.jp/txt/116213950X01320050602/28

 サ条約第11条で日本国が受諾したのは、極東国際軍事裁判の結論でウェッブ裁判長が読み上げた判決であり、その中には裁判所の設立、審理、その根拠、管轄権の問題、様々な訴因のもとになる事実認識、起訴状の訴因についての認定、判定、刑の宣告のすべてが含まれるというのが日本政府の見解だ。「様々な訴因のもとになる事実認識、起訴状の訴因についての認定」を日本政府は受け入れており、「不法、不当なものとして異議を述べる立場にはない」のである。「この受諾ということによりまして、その個々の事実認識等につきまして積極的にこれを肯定、あるいは積極的に評価するという立場に立つかどうかということは別にいたしまして」と言っているが、この「別にいたしまして」というのは判断を回避しているのであって、「個々の事実認識等について積極的にこれを肯定、あるいは積極的に評価するという立場に立つ」ことを肯定も否定もしていない。具体的に特定の事実認識について受け入れないと言っているわけでもない。